東京地方裁判所 平成2年(ワ)721号 判決 1991年4月25日
原告(反訴被告) 伊藤淳也
右訴訟代理人弁護士 大原義一
被告(反訴原告) 株式会社朝日不動産ローン
右代表者代表取締役 草間嘉瑞子
右訴訟代理人弁護士 吉田正夫
同 植草宏一
同 吉宗誠一
主文
一 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)に対し、金三七万九四九六円及びこれに対する昭和六三年一一月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告(反訴被告)のその余の請求を棄却する。
三 被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。
四 訴訟費用は、本訴請求については原告(反訴被告)の負担とし、反訴請求については被告(反訴原告)の負担とする。
五 この判決は、原告(反訴被告)勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(本訴)
一 請求の趣旨
1 (主位的請求)
被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、原告(反訴被告、以下「原告」という。)に対し、金二八五九万七〇六七円及び内金一〇〇万円に対する昭和六〇年三月二〇日から、内金二七五九万七〇六七円に対する昭和六二年一月二九日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
被告は、原告に対し、金二七一三万〇四六一円及びこれに対する昭和六二年一月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴)
一 請求の趣旨
1 原告は、被告に対し、金八〇七万九九〇五円及びこれに対する昭和六二年一月二九日から支払済みまで年三割の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文第三項に同じ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
第二当事者の主張
(本訴)
一 請求原因
(主位的請求原因)
1 原告は、もと趣味の切手の販売を業とする株式会社切手投資センター(以下「切手投資センター」という。)の代表取締役であり、被告は、不動産または不動産に関する権利を担保とする融資等を目的とする株式会社である。
2 原告は、趣味の切手を販売するかたわら、切手を担保とする金融の仲介をしていたが、昭和五四年ころ、被告の実質的経営者である草間正義(以下「草間」という。)と知り合い、次の各者と被告との間の切手を担保とする金銭消費貸借契約を仲介した。切手は原告が評価した上、担保に供され、また、貸主の名義は被告の裏金を用いることから、被告の従業員である君波清とした。
(一) 契約日 昭和五四年五月二三日
借主 中山某
元本 金八〇〇万円
(二) 契約日 同月二五日
借主 清水信貴
元本 金一三〇〇万円
(三) 契約日 右同日
借主 四宮正三
元本 金一〇〇〇万円
(四) 契約日 右同日
借主 鈴木万里夫
元本 金五〇〇万円
3 その後、切手ブームが去り、切手投資センターも解散するに至ったが、原告が、昭和五九年ころ、仕事を復活するにあたり草間に資金援助を依頼したところ、草間はこれを承諾し、被告は、同年七月一九日、原告に対し、弁済期を同六一年七月一八日、利息年一四・六パーセント(但し、年三六五日日割計算)、遅延損害金年三〇パーセントとして金二〇〇〇万円を貸し渡すとともに、原告は、右同日、被告との間で別紙物件目録記載の原告所有の土地建物(以下「本件土地建物」という。)につき右二〇〇〇万円の貸金債権を担保するため抵当権(以下「本件第一の抵当権」という。)を設定する旨の契約を締結し、その旨の登記をした。
4 原告は、本件土地の一部を東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)に売却する際に、原告の日本債券信用銀行株式会社(以下「日本債券信用銀行」という。)に対する債務を保証するため、安田火災海上保険株式会社が本件土地に設定していた順位一番の抵当権を抹消する必要があることから、草間に対して融資の増額を求め、同六〇年三月一九日、被告との間で次のような内容の合意をした。
(一) 被告が原告に対し、前記2(一)及び(二)の債務の一部金二〇六〇万円のうち金一〇〇〇万円につき清水と中山が差し入れた担保の切手及び借用書を引き渡すのと引換えに、原告は右金一〇〇〇万円の債務につき債務引受をする。
(二) 被告は、右(一)の債務引受を条件に、原告に対し、金五〇〇〇万円を利息日歩三銭ないし三銭五厘、弁済は七ないし八年の分割払の約束で、なお、昭和五九年七月一九日に貸した金二〇〇〇万円の残元本及び利息を差し引いた上、貸し渡す。
5 原告は、右同日、被告に対し、右4で債務引受を約した債務の内金として金一〇〇万円を支払った。
6 原告は、同年五月七日、被告との間で右4の合意を変更し、次のような内容の合意をした(以下「本件合意」という。)。
(一) 被告が原告に対し、前記2(一)及び(二)の債務の一部金二〇六〇万円(ただし、実際は、右5で原告が被告に支払った金一〇〇万円を控除した金一九六〇万円)につき中山と清水が被告に対して差し入れた担保の切手及び借用書(以下「本件担保切手及び借用書」という。)を引き渡すのと引換えに、原告は右金二〇六〇万円(実際は、右のとおり金一九六〇万円)の債務につき債務引受をする。
(二) 被告は、右(一)の債務引受を条件に、原告に対し、金五二〇〇万円を利息日歩四銭五厘、弁済は七ないし八年間の分割払いの約束で、なお、昭和五九年七月一九日に貸した金二〇〇〇万円の残元本及び利息を差し引いた上、貸し渡す。
7(一) 原告は、同年五月九日、本件合意に基づき、被告との間で、右6(一)の債務につき債務引受をした(以下「本件債務引受」という。)。
(二) 被告は、右同日、本件合意に基づき、原告との間で、次の内容の金銭消費貸借契約を締結した(以下「本件消費貸借契約」という。)。
(1) 元本 金五二〇〇万円
(2) 弁済期 昭和六一年五月八日
(3) 利息 年一六・四二パーセント
(4) 遅延損害金 年三二・八五パーセント
(5) 利息は毎月末日限り、向こう一か月分を前払いする。
(6) 元利金の支払を一回でも怠ったときは原告は当然に期限の利益を失い、直ちに債務の全額を弁済する。
(三) 原告は、右同日、被告との間で本件消費貸借契約に基づく貸金債権を担保するため原告所有の本件土地建物につき抵当権(以下「本件第二の抵当権」という。)を設定する旨の契約を締結し、その旨の登記をした。
(四) 被告は、右同日、本件合意に基づき、原告に対し、本件消費貸借契約に基づく貸金五二〇〇万円から次の各金員の合計金三八七〇万五〇〇〇円を天引きして、差し引き金一三二九万五〇〇〇円を交付した。
(1) 本件債務引受金一九六〇万円
(2) 前記昭和五九年七月一九日の借入金の同六〇年五月九日現在の元利金二〇〇三万二〇〇〇円のうち金一七九三万二〇〇〇円(ちなみに残金二一〇万円は同年六月一二日に支払った。)
(3) 本件消費貸借契約に基づく貸金に対する昭和六〇年五月九日から同年六月七日までの前払利息金七〇万二〇〇〇円、契約書の印紙代金六万一〇〇〇円、公正証書作成費金一〇万円、火災保険料金三万円、本件第二の抵当権の登記費用金二八万円、以上合計金一一七万三〇〇〇円
(五) 原告は、右同日、被告との間で、本件担保切手及び借用書の交付を昭和六〇年五月一五日まで猶予する旨合意した。
8 ところで、昭和六〇年当時被告が保管していた本件担保切手の価値は、卸値としては少なくとも金一〇〇〇万円以上の価値があり、さらに原告が長年の切手業界での経験を生かして担保切手を観光みやげ物セット等で売り出せば金一五〇〇ないし二〇〇〇万円の回収が可能であった。また、本件借用書が手に入れば、原告の方で各債務者に求償することが可能であったのであり、それゆえ原告は本件債務引受をしたのであって、被告の本件担保切手及び借用書を原告に引き渡すという債務は本件債務引受の不可欠の要素であり、被告が本件担保切手及び借用書を返さないことがわかっていれば、原告は本件債務引受をしなかった。
しかし、被告は、昭和六〇年五月一五日が経過しても本件担保切手及び借用書を交付しないばかりか、原告が、同年一〇月一八日、被告に対して、同年一一月五日までに本件担保切手及び借用書を引き渡すよう催告したところ、被告は同年一〇月二三日付け書面で、本件債務引受において引き受けたとされる債務は真実は原告自身の債務であり、本件担保切手及び借用書は同年五月九日に返還済みであると主張するに至った。
そこで、原告は、同年一〇月三一日到達の書面で被告に対し、本件担保切手及び借用書を交付しないことを理由に本件債務引受並びにこれと一体の本件消費貸借契約のうち金一九六〇万円分の消費貸借契約及び本件第二の抵当権設定契約を解除する旨の意思表示をした。その結果、本件消費貸借契約による借入金は金三二四〇万円となった。
9 また、本件のように他人の窮状に乗じて融資の条件として第三者の債務を肩代わりさせることは公序良俗に反して無効であるから、本件債務引受は無効というべきである。
仮に本件債務引受が有効であるとしても、本件債務引受の条件である本件担保切手及び借用書の返還を履行せず、それを理由に本件債務引受及び消費貸借契約の一部を解除され、元金が金三二四〇万円しかないのを知りながら、後記のとおり本件土地建物につき不動産競売を申し立て、金五二〇〇万円の元金及びこれに対する利息、損害金を受領したことは極めて不当である。
10 被告は、本件第二の抵当権に基づき、本件土地建物につき不動産競売の申立をし、弁済期前の昭和六〇年一〇月二三日に競売開始決定を得、同六二年一月二八日、売却代金六五二四万七二一七円全額を受領した。
11 しかし、原告は、被告に対し、本件消費貸借契約に基づく貸金に対する利息のうち、昭和六〇年五月九日に、同日から同年六月七日までの利息金七〇万二〇〇〇円、同月一三日に同月八日から同年七月一日までの利息金五六万一六〇〇円及び同月二日の利息の一部として金八四〇円、同月一日に同月二日から同年八月一日までの利息金七二万四五六〇円、同月一日に同月二日から同年九月一日までの利息金七二万五四〇〇円及び同年一〇月三一日に本件消費貸借契約に基づく貸金のうち前記元本金三一四〇万円に対する同年一一月一日から同月三〇日までの利息金四二万三九〇〇円合計金三一三万八三〇〇円を支払っている。
したがって、被告が本件土地建物の不動産競売により受領した金六五二四万七二一七円のうち、正当なのは元本金三二四〇万円及びこれに対する昭和六〇年五月九日から同六二年一月二八日までの利息制限法の上限利率年一割五分の割合による利息の合計金八三八万八四五〇円から原告が既払いの金三一三万八三〇〇円を控除した残金五二五万〇一五〇円の元利合計金三七六五万〇一五〇円であり、その余の金二七五九万七〇六七円は被告により法律上の原因なく不当に利得された金員である。また、原告が昭和六〇年三月一九日に被告に対して引受債務の内金として支払った金一〇〇万円も同様に法律上の原因なく不当に利得された金員である。
(予備的請求原因)
12 仮に本件債務引受及び本件消費貸借契約の一部の解除または本件債務引受の無効が認められないとしても、被告は、前記のとおり、原告との間で、本件担保切手及び借用書を引き渡すことを約したのであるから、これらを引き渡さないことによって被った原告の損害を賠償する義務がある。そして、被告が虚偽の事実を主張するなど不履行の態様の違法性が強度であること、借用書を原告に渡さないことにより原告の求償の可能性を故意に一切奪ってしまったこと、自らの不履行は棚上げにして反訴を提起し、年三割もの高額な損害賠償金を請求している悪質な対応等を考慮すると、右損害は金二〇六〇万円全額とするのが相当である。
13 原告は、平成二年一二月一七日の第七回口頭弁論期日において、被告に対する右金二〇六〇万円の損害賠償債権と被告の原告に対する本件消費貸借契約に基づく貸金債権のうち金二〇六〇万円とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。したがって、被告の原告に対する右契約に基づく貸金元金は、原告が右損害賠償債権を取得した昭和六〇年一〇月三一日(前記契約解除の日)に遡って金三一四〇万円となった。
そうすると、被告が本件土地建物の不動産競売により受領した金六五二四万七二一七円のうち、正当なのは元本金三一四〇万円とこれに対する昭和六〇年一一月一日から同六二年一月二八日までの利息制限法の上限利率年一割五分の割合による利息金五八五万八四六五円と、元金五二〇〇万円に対する同六〇年九月二日から同年一〇月三一日までの同様年一割五分の割合による利息金一二八万二一九一円から右同日に原告が支払った金四二万三九〇〇円を控除した金八五万八二九一円とを合計した金三八一一万六七五六円であり、その余の金二七一三万〇四六一円は被告により法律上の原因なく不当に利得された金員である。
14 よって、原告は、被告に対し、不当利得による返還請求権に基づき、主位的に金二八五九万七〇六七円及び内金一〇〇万円に対する被告が受領した日の翌日である昭和六〇年三月二〇日から、内金二七五九万七〇六七円に対する被告が受領した日の翌日である昭和六二年一月二九日からそれぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、予備的に金二七一三万〇四六一円及びこれに対する被告が受領した日の翌日である昭和六二年一月二九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2のうち、原告が昭和五四年ころ趣味の切手を販売していたことは認め、その余は否認する。
請求原因2(一)ないし(四)の各金銭消費貸借契約の貸主は被告であるが、借主はいずれもそこに記載された者ではなく、原告であり、担保の切手は原告が第三者から提供を受けたものである。なお、貸主名義を君波としたのは、原告が金融業者である被告ではなく個人名義にしてほしいと懇請したからである。
原告は右消費貸借契約の弁済期を経過しても履行せず、切手投資センターも倒産してしまい、原告は昭和五五年二月ころから同五八年一〇月ころまで行方をくらましていた。なお、請求原因2(三)の金銭消費貸借契約の担保提供者である四宮正三(以下「四宮」という。)は金一〇〇〇万円を、同2(四)の金銭消費貸借契約の担保提供者である鈴木万里夫(以下「鈴木」という。)は金五〇〇万円をそれぞれ担保提供者としての道義的責任に基づき被告に対し支払ったので、被告は同人らに対して担保の切手を返還した。
被告は同2(一)及び(二)の金銭消費貸借契約の担保切手を処分しようとしたが、その大部分は沖縄切手で、昭和四七年の沖縄返還後は使用できないので価値がほとんどなく、そのため、右のうち金四〇万円相当の切手を処分して右貸金に弁済充当しただけにとどまり、結局、原告の残債務は金二〇六〇万円となった。
3 同3のうち、被告が原告主張のとおり金二〇〇〇万円を貸し渡すとともに、その担保として原告所有の本件土地建物について本件第一の抵当権を設定し、その旨の登記をしたことは認め、その余は知らない。
4 同4の事実は否認する。
請求原因2(一)及び(二)の債務の一部金二〇六〇万円は、原告の被告に対する債務であるから、草間が原告に対して右のうち金一〇〇〇万円の債務引受を求めるはずがない。
5 同5のうち、原告が昭和六〇年三月一九日被告に対し金一〇〇万円を支払ったことは認め、その余は否認する。
右金一〇〇万円は、原告の被告に対する前記債務の一部についての弁済である。
6 同6の事実は否認する。
これについても、同4に対する前記主張と同様である。
7 同7のうち、被告が、昭和六〇年五月九日に、原告との間で、同(二)記載のとおり本件消費貸借契約を締結し、これに基づく債権を担保するため本件土地建物につき本件第二の抵当権を設定し、その旨の登記をしたこと、被告は、右同日、原告に対し、右貸付金五二〇〇万円から、金一九六〇万円(ただし、原告の債務として)、昭和五九年七月一九日の借入金の同六〇年五月一九日現在の元利金二〇〇三万二〇〇〇円の一部金一七九三万二〇〇〇円、右貸付金に対する一か月分の前払利息金七〇万二〇〇〇円、契約書の印紙代金六万一〇〇〇円、公正証書作成費金一〇万円、火災保険料金三万円、合計金三八四二万五〇〇〇円を天引きしたことは認め、その余は否認する。
したがって、被告が同年五月九日に原告に交付した金員は金一三五七万五〇〇〇円である。
被告は、右同日、原告に対し、原告を借主とする請求原因2(一)及び(二)の金銭消費貸借契約において第三者から提供された担保の切手のうち、被告が処分した金四〇万円相当の切手を除く本件担保切手及び借用書を返還した。
8 同8のうち、被告が、昭和六〇年一〇月二三日付け書面で、原告が引き受けたという債務は原告自身の債務であり、本件担保切手及び借用書は同年五月九日に返還済みであると主張したこと、原告が、同年一〇月三一日被告到達の書面を送付したことは認め、その余は否認する。
右書面において原告主張の解除通知はされていない。
9 同9の事実は否認ないし争う。
10 同10の事実は認める。
原告は、昭和六一年一月、本訴とほぼ同じ理由で本件土地建物の不動産競売事件につき執行異議の申立をしたが、理由がないとみて、同年四月一八日に取り下げており、右競売事件における配当についても配当異議すら申し立てていない。このように原告は自らの主張が認められないことを知悉しながら本訴を提起したもので、蒸し返し訴訟として許されないというべきである。
11 同11のうち、本件消費貸借契約による利息として、原告主張のとおりの各金員合計金三一三万八三〇〇円を受け取ったことは認め、その余は否認ないし争う。
12 同12の事実は否認し、その主張は争う。
13 同13の事実のうち、被告の原告に対する本件消費貸借契約に基づく貸金元本が昭和六〇年一〇月三一日に金三一四〇万円となったことは否認し、その主張は争う。
(反訴)
一 反訴の請求原因
1 被告は、昭和六〇年五月九日、原告との間で、次のとおり本件消費貸借契約を締結した。
(一) 元本 金五二〇〇万円
(二) 弁済期 昭和六一年五月八日
(三) 利息 年一六・四二パーセント
(四) 遅延損害金 年三二・八五パーセント
(五) 利息は毎月末日限り、向こう一か月分を前払いする。
(六) 元利金の支払を一回でも怠ったときは原告は当然に期限の利益を失い、直ちに債務の全額を弁済する。
2 原告は、右同日、被告との間で本件消費貸借契約に基づく貸金債権を担保するため本件土地建物につき本件第二の抵当権を設定し、その旨の登記をした。
3 しかし、原告は、被告に対し、昭和六〇年五月九日から同年九月一日までの利息を支払ったのみでその後の利息を支払わなかったので、期限の利益を喪失した。
4 そこで、被告は、同年一〇月、横浜地方裁判所川崎支部に本件土地建物につき不動産競売の申立てをし(同支部昭和六〇年(ケ)第一六五号)、同月二三日、競売開始決定を得、昭和六二年一月二八日の配当期日において、本件消費貸借契約に基づく貸金元本金五二〇〇万円、同六〇年九月二日から同年一〇月一日までの年一割五分の割合による利息金六四万一〇九五円、同月二日から同六二年一月二八日までの年三割の割合による損害金二〇六八万六〇二七円の合計金七三三二万七一二二円のうち、金六五二四万七二一七円の配当金を受領し、弁済を受けた。これを法定充当すると、利息金六四万一〇九五円、損害金二〇六八万六〇二七円、元本四三九二万〇〇九五円に順次充当されるから、被告は右貸金元本のうち金八〇七万九九〇五円については未だ弁済を受けていない。
5 よって、被告は、原告に対し、右貸金残債権金八〇七万九九〇五円及びこれに対する右配当金受領の日の翌日である昭和六二年一月二九日から支払済みまで約定の遅延損害金利率年三二・八五パーセントのうち利息制限法の上限利率年三割による遅延損害金の支払を求める。
二 反訴の請求原因に対する認否
1 反訴の請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3のうち、原告が被告に対して本件消費貸借契約に基づく貸金債権に対する昭和六〇年五月九日から同年九月一日までの利息を支払ったことは認め、原告がその後の利息の支払を怠ったこと、期限の利益を喪失したことは争う。
本件消費貸借契約に基づく貸金五二〇〇万円のうち、金一九六〇万円は第三者の被告に対する債務を、右第三者が被告に対して差し入れた本件担保切手及び借用書を原告に引き渡すことを条件に引き受けたものである。しかし、被告は本件担保切手及び借用書を原告に引き渡さないので、原告は、同年一〇月三一日、右金一九六〇万円の債務引受を解除した。したがって、同年一一月一日以降の本件消費貸借契約に基づく貸金元本は金三一四〇万円であり、原告は、被告に対し、この元金に対する利息の支払を申し出ていた。
4 同4のうち、被告が、昭和六二年一月二八日に配当金として金六五二四万七二一七円を受領したことは認めるが、競売申立の経緯については知らないし、その余は否認ないし争う。
三 反訴の抗弁
1 本件消費貸借契約の一部解除
(一) 原告は、本件消費貸借契約締結に際して、被告との間で、本件債務引受をした。そして、被告は、本件消費貸借契約に基づく貸金五二〇〇万円から、請求原因7(四)記載のとおり合計金三八七〇万五〇〇〇円を天引きして、差し引き金一三二九万五〇〇〇円を原告に交付した。
(二) 本訴の請求原因7の(五)に同じ。
(三) 同8、10、11に同じ。
2 本件消費貸借契約の一部無効
本訴の請求原因9ないし11に同じ。
3 相殺
本訴請求原因12、13に同じ。
四 反訴の抗弁に対する認否
1(一) 反訴の抗弁1(一)のうち、被告が、原告に対し、本件消費貸借契約に基づく貸金五二〇〇万円から、金一九六〇万円、昭和五九年七月一九日の借入金の同六〇年五月一九日現在の元利金二〇〇三万二〇〇〇円の一部として金一七九三万二〇〇〇円、右貸付金に対する一か月分の前払利息金七〇万二〇〇〇円、契約書の印紙代金六万一〇〇〇円、公正証書作成費金一〇万円、火災保険料金三万円、合計金三八四二万五〇〇〇円を天引きしたことは認め、その余は否認する。
既に述べたように、被告が原告との間で本件債務引受をしたことはない。なお、被告が同年五月九日に原告に交付した金員は金一三五七万五〇〇〇円である。
(二) 同1(二)の事実は否認する。
(三) 同1(三)に対する認否は本訴の請求原因8、10、11に対する認否と同じ。
2 同2に対する認否は本訴の請求原因9ないし11に対する認否と同じ。
3 同3に対する認否は本訴請求原因12、13に対する認否と同じ。
第三証拠《省略》
理由
一 本訴の請求原因について
1 請求原因1の事実、同2のうち、原告が昭和五四年ころ趣味の切手を販売していたこと、同3のうち、被告が、原告主張のとおり金二〇〇〇万円を貸し渡すとともに、その担保として原告所有の本件土地建物について本件第一の抵当権を設定し、その旨の登記をしたこと、同5のうち、原告が昭和六〇年三月一九日被告に対し金一〇〇万円を支払ったこと、同7のうち、被告が昭和六〇年五月九日に、原告との間で、同(二)記載のとおり本件消費貸借契約を締結し、これに基づく債権を担保するため本件土地建物について本件第二の抵当権を設定し、その旨の登記をしたこと、被告は、右同日、原告に対し、右貸付金五二〇〇万円から金一九六〇万円(ただし、原告の債務として)、昭和五九年七月一九日の借入金の同六〇年五月一九日現在の元利金二〇〇三万二〇〇〇円の一部金一七九三万二〇〇〇円、右貸付金に対する一か月分の前払利息金七〇万二〇〇〇円、契約書の印紙代金六万一〇〇〇円、公正証書作成費金一〇万円、火災保険料金三万円、合計金三八四二万五〇〇〇円を天引きしたこと、同8のうち、被告が、昭和六〇年一〇月二三日付け書面で、原告が引き受けたという債務は原告自身の債務であり、担保切手及び借用書は同年五月九日に返還済みであると主張したこと、原告が、同年一〇月三一日被告到達の書面を送付したこと、同10の事実、同11のうち、本件消費貸借契約による利息として、原告主張のとおりの各金員合計金三一三万八三〇〇円を受け取ったことは、いずれも当事者間に争いがない。
2 そこで、原告と被告との間で本件消費貸借契約が締結されるに至った経緯、本件土地建物が競売に付されるに至った経緯につき検討する。
右1の争いがない事実、《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告は、切手投資センターの代表者として昭和四〇年ころから趣味の切手の販売を始め、当初は全国の雑誌に広告を掲載するなどして通信販売を行っていたが、その後店頭販売、デパート等における催事、業者間の取引をするようになった。昭和四五年には「旬刊切手投資」という雑誌を創刊し、切手の情報、新切手発行のニュースなどとともに東京、大阪、名古屋、京都などで行われた業者間の切手の交換会における取引値段や主要な業者の取引値段などを掲載して一〇日に一回の割合で発行し、各地の業者や切手投資家に切手の相場情報を提供していた。その後、原告は新興の切手商などとともに任意団体である「全日本切手商協会」を設立して旬刊切手投資の発行を引き継ぎ、昭和四六年ころから「沖縄切手(復帰前に沖縄で発行されていた切手)ならいくらでも買います」といった広告を盛んに出すとともに、協会加盟の切手商の取引値段を旬刊切手投資に掲載するなどして沖縄切手の投機を煽った。
このため切手商や一般投資家が参加した沖縄切手ブームが起こり、昭和四七、四八年にはピークを迎え、デパートなどで即売会を行うと、一週間で金三〇〇〇万円ないし一億円近い売上を上げることもあった。しかし、昭和四八年五月ころになって一般の新聞などに「沖縄切手にご用心」といった警告記事が出始めると業者や一般投資家の売りが殺到し、沖縄切手の相場は暴落した。その後、一般の切手価格も暴落し、その取引は激減したが、昭和五三、四年ころには、ようやくその相場は安値で安定するに至った。
(二) 質屋の中には日本切手または沖縄切手を担保として融資をするものがあり、原告が経営していた切手投資センターではその融資の仲介もしていた。客が店頭に切手を持ち込んだ場合は、おおむね旬刊切手投資記載の相場表の仲値(切手商仲間で処分したり、売買したりする際の切手の価格)の六〇ないし七〇パーセントで評価して質屋に紹介し、質屋はその担保評価に従って客に金銭を貸し付けていた。
(三) 草間は、昭和五四年五月ころ、切手投資センターが切手を担保とする融資を仲介していることを知って、関心を持ち、これについて原告から説明を受けた。そして、草間は、原告との間で、融資の総枠を約金一億円、金利は月三パーセント位、切手の担保評価を前述のとおり六〇ないし七〇パーセントとすることとして、原告の経営する切手投資センターの仲介で切手を担保に金銭を貸し付けることを合意した。ただ、その際、右融資の資金は、被告の裏金を使うので、貸主の名義は当時の被告の従業員であった君波清(以下「君波」という。)の名前にすることとした。また、金銭の授受は、切手投資センターが一旦客から担保に供する切手を預かり、これを被告方に持参して現金の交付を受け、切手投資センターがこの現金を客に交付するという形をとることとした。
原告は、右合意に従い、当時茨城県でスズキスタンプとの名称で切手商を営んでいた鈴木、切手投資家の四宮を被告に紹介した。鈴木は当時京都でクマノスタンプとの名称で切手商を営んでいた若松勇(以下「若松」という。)に手続の代行を依頼して、同年五月二五日、切手を担保に被告から金五〇〇万円を借り受け、四宮も右同日切手を担保に被告から金一〇〇〇万円を借り受けた。また、原告は、中山某(以下「中山」という。)、清水信貴(以下「清水」という。)を被告に紹介し、中山は同月二三日金八〇〇万円を、清水は同月二五日金一三〇〇万円をそれぞれ切手を担保にして被告から借り受けた。利息は月二・四ないし二・五パーセント、弁済期は一か月であるが、利息を支払えば延期は可能とされた。被告が右鈴木らから担保として受け取った切手の相当部分は沖縄切手であり、原告はこれを仲値の六〇ないし七〇パーセントと担保評価した。
(四) しかし、その後、昭和五五年に切手投資センターが手形不渡りを出して倒産し、原告も所在不明となったため、草間の前記融資計画は頓挫し、鈴木らからの利息も同年二月から入らなくなった。このため草間は担保の切手を処分しようとしたが、思うように処分することができなかった。ただ、鈴木、四宮、若松とは連絡がとれたので、被告は鈴木、四宮から前記貸金の元本の弁済を受けることができた。また、草間(実際の仕事をしたのは君波である。)は、同年秋ころ若松の協力で担保切手の即売会を実施するなどして、その処分に腐心したが、結局金四〇万円の回収ができただけであった。
(五) 原告は、その後、しばらくして、金券類やディスカウント商品の販売などの新規事業を計画し、昭和五九年六月、草間に会って、資金援助を依頼したところ、本件土地建物を担保に入れることを条件に被告から金二〇〇〇万円の融資を得られることになった。そして、原告は、同年七月一九日、被告から、弁済期同六一年七月一八日、利息年一四・六パーセント(但し、年三六五日の日割計算)、遅延損害金年三〇パーセントとして金二〇〇〇万円を借り入れるとともに、右債務を担保するため、被告との間で本件土地建物に本件第一の抵当権を設定し、その旨の登記をした。
(六) その後、原告は、本件土地のうち別紙物件目録(5)ないし(7)の土地について東京電力のために地役権を設定する必要から、債権者である日本債券信用銀行に債務を弁済して、この債務の支払保証のため本件土地建物につき安田火災海上保険株式会社が設定した抵当権を抹消する必要が生じ、そのための資金を得るべく、昭和六〇年三月一九日、草間に対して被告からの融資の増額を依頼した。草間は、原告に対し、金五〇〇〇万円を融資するが、前記清水及び中山に貸した合計金二一〇〇万円のうち、未回収金が金二〇六〇万円あるので、その約半分の金一〇〇〇万円を肩代わりしてもらいたい、その担保である本件担保切手及び借用書は原告に引き渡す旨申し出た。なお、昭和五九年七月一九日に被告が貸した金二〇〇〇万円の残元利金は金五〇〇〇万円から差し引くとの話しであった。原告は早急に融資を受ける必要に迫られていたこともあり、また、本件担保切手及び借用書を渡してもらえば、いずれある程度の回収は可能であるとも考え、草間の右申出を了承した。原告は、右同日、草間を介して被告に対し、前記金一〇〇〇万円を債務引受をした場合の内金として、とりあえず金一〇〇万円を支払った。
しかし、右五〇〇〇万円の融資の話を詰めるべく、同年五月七日、原告、草間、被告の従業員の後藤、塚田らが、草間が代表者をしていた新潟の株式会社山和住宅に集まった際、草間は、原告に対し、同年三月の話しのうち、前記未回収金のうち金一〇〇〇万円を原告が肩代わりする点を、未回収金二〇六〇万円全額を肩代わりしてほしい、その代わり融資額を金五二〇〇万円にするなどと申し入れた。また、本件担保切手及び借用書も必ず引き渡す旨述べた。原告は早急に融資を受ける必要に迫られていたこと、そもそも右金二〇六〇万円の貸金は原告が被告に仲介、斡旋したものであり、被告がその回収ができないままになったことについて、道義的責任を感じていたこと、また本件担保切手をうまく処分するなどすればある程度の回収も可能であると考えたことから、草間の右申入れを承諾した。そこで、原告は、右同日、被告との間で、前記未回収金二〇六〇万円(実質的には既払の金一〇〇万円を引いた金一九六〇万円)について本件債務引受(重畳的債務引受と解される。)をするとともに、本件消費貸借契約を同月九日に締結することとし、その際、本件担保切手及び借用書の引渡しを受けることを口頭で合意した。
そして、原告は、同月九日、被告と本件消費賃借契約を締結し、これに基づき、請求原因7(四)(1)ないし(3)のとおり本件債務引受金一九六〇万円ほか合計金三八七〇万五〇〇〇円を差し引いた残額金一三二九万五〇〇〇円の交付を受けるとともに、右貸金債務を担保するため、本件土地建物につき本件第二の抵当権を設定し、その旨の登記をした。この結果、昭和五九年七月一九日に原告が被告から借り受けた金二〇〇〇万円の残元本は金二一〇万円となった。
(七) しかし、被告は、昭和六〇年五月九日、原告に対し、本件担保切手及び借用書を交付しなかった。原告は約束が違うと抗議したものの、塚田や後藤が必ず約束は守るというので、その交付を同月一五日まで猶予した。
被告は同月一五日になっても本件担保切手及び借用書を原告に引き渡さず、ようやく同年八月二〇日ころ、原告は、被告の四谷の事務所において、本件担保切手の一部を見せてもらい、その中身を確認したが、その大半は沖縄切手であった。後藤と塚田は、原告に対して、借用書はまだ見つからず、本件担保切手の残りの分も探すから九月一〇日ころまで待ってほしいと言うので、原告も明細書と照らし合わせてから全部を引き取った方がよいと考えて、その日は右切手を受け取らなかった。ところが、株式会社山和住宅の吉澤は、同月六日ころ、原告に対し、草間は原告との間で本件担保切手を返す約束をしたことはなく、そもそも前記未回収金二〇六〇万円は原告が借りた債務であると主張し始め、同年一〇月一六日、原告が草間に会った際にも、草間は同様の話を繰り返した。原告は、同月一八日、被告に対し、同年一一月五日までに本件担保切手及び借用書を引き渡すよう催告したところ、被告は、同月二六日ころ、前記金二〇六〇万円は原告が肩代わりした債務ではなく、被告から借りた債務であり、本件担保切手及び借用書は同年五月九日に原告に返却済みであると主張するに至った。そこで、原告は、被告には本件担保切手及び借用書を渡す意思はないものと判断して、同年一〇月三一日被告到達の書面で本件債務引受契約を解除する旨の意思表示をした。
(八) 被告は、原告が後記のとおり本件消費貸借契約に基づく約定利息を支払わないので、期限の利益を失ったとして、本件第二の抵当権に基づき、本件土地建物につき不動産競売の申立をし、昭和六〇年一〇月二三日に競売開始決定を得た。
原告は執行異議の申立をしたが、執行停止のための保証金を準備できなかったため、右申立を取り下げた。被告は、同六二年一月二八日、本件土地建物の売却代金として金六五二四万七二一七円を受領した。
(九) ところで、原告は、昭和六〇年五月九日に、同五九年七月一九日の借入金二〇〇〇万円の同六〇年五月九日当時の元利金合計金二〇〇三万二〇〇〇円のうち金一七九三万二〇〇〇円を、同年六月一三日には残元本金二一〇万円及び同年五月九日から同年六月一二日までの利息金二万八五六〇円をそれぞれ被告に支払った。
また、原告は、同年五月九日、本件消費貸借契約に基づく貸金債務金五二〇〇万円に対する右同日から同年六月七日までの利息として金七〇万二〇〇〇円を天引きされ、同月一三日、右金五二〇〇万円の債務に対する同月八日から同年七月一日までの利息として金五六万一〇〇〇円を被告に支払い、同月一日、右金五二〇〇万円の債務に対する同月二日から同年八月一日までの利息の一部として同年六月一三日に前記金二一〇万円の債務を支払った際に被告に預けておいた残金八四〇円を充当するとともに、右利息の一部として金七二万四五六〇円を被告に支払い、また、同年八月一日、右金五二〇〇万円の債務に対する同月二日から同年九月一日までの利息として金七二万五四〇〇円を被告に支払った。
そして、原告は、被告が本件担保切手及び借用書を交付しないので、同年一〇月二一日、被告に対し、本件債務引受にかかる金一九六〇万円については利息を支払う必要がないことを通告し、同月三一日、右金五二〇〇万円から金一九六〇万円と昭和六〇年三月一九日に支払った金一〇〇万円の合計金二〇六〇万円を控除した残金三二四〇万円に対する利息として金四二万三九〇〇円を被告に支払った。
以上の事実が認められる。
《証拠判断省略》
3 ところで、原告は、本件債務引受をする際、本件債務引受にかかる債務の弁済と本件担保切手及び借用書の引渡しとは、引換えにされる約束であったところ、原告が昭和六〇年五月九日に右債務を弁済したにもかかわらず、被告は本件担保切手及び借用書を引き渡さなかったので、同年一〇月三一日に右債務不履行を理由に本件債務引受を解除した旨主張するので、この点について判断する。
(一) 本件担保切手は、昭和五四年五月に原告が仲介した被告と清水及び中山との間の各金銭消費貸借(合計金二一〇〇万円)の際に同人らがそれぞれ被告に差し入れた担保の一部であり、本件借用書はその際同人らが被告に差し入れた借用書であること、被告は、同人らからの利息の支払が滞った後の昭和五五年秋ころ、右担保のうち金四〇万円相当の切手を換価し、その債権の弁済に充てたこと、原告は、前述のような経緯で昭和六〇年五月七日、被告との間で、清水と中山が被告から借りた金二一〇〇万円から右金四〇万円を控除した金二〇六〇万円につき債務引受(本件債務引受)をし、同月九日、これを支払ったこと、ところが、その後、被告は本件担保切手及び借用書を引き渡さないことは前記認定のとおりである。
(二) ところで、原告主張のような民法五四一条以下の規定に従って債務不履行を理由に契約を解除する場合には、その解除の原因となる債務不履行とは、双務契約において対価的牽連性を有する債務について不履行があったか、あるいは右のような債務でなくても、契約締結に当たって重要な意義をもち、その不履行が契約締結の目的達成に重大な影響を与えるなどの契約上の義務違反があったときに限られると解するのが相当である。
これを本件についてみると、原告は、被告から相当の融資を得られるからこそ本件債務引受をしたもので、本件担保切手及び借用書の引渡しを受けたとしても、引き受けた債務の一部しか回収できないと考えられたこと(その金額については、後記認定のとおり)など前記認定の経緯に照らすと、本件債務引受にかかる債務の弁済と本件担保切手及び借用書の引渡しとの間に対価的牽連関係があると認めることはできない(なお、一般的にも代位弁済者は、弁済をした場合に、債権者に証書及び担保物の交付を求めることができるに過ぎない(民法五〇三条参照)。)。また、被告が本件担保切手及び借用書の引渡しに合意したのは、本件消費貸借がされるに至った前記認定の経緯に鑑みると、原告が本件債務引受をし、それにより原告の仲介による貸金の回収が可能になったからであって、本件担保切手等は右貸金が返済された後に引き渡せば足りるものと解されるから(前記認定のとおり、現にまず本件債務引受がされ、その後に本件消費貸借契約が締結されている。)、本件債務引受契約締結に当たった重要な意義を持つということもできない。そうすると、原告が引き受けた債務を弁済したにもかかわらず、被告が本件担保切手及び借用書を引き渡さない場合でも、それによって生じた損害の賠償を請求することができることがあり得ることは格別、それを理由に本件債務引受自体を解除することはできないというべきである。
なお、原告は、本件債務引受をして債務を弁済したにもかかわらず、被告は本件担保切手及び借用書を今日に至るまで返還しないのであり、本件債務引受を解除することができないとすれば、著しく正義に反するとも主張する。しかし、前記認定のとおり、本件債務引受は原告が被告から金を借りる際の条件であったこと、そもそも本件債務引受の対象である債務は以前原告の仲介によって被告が中山らに貸し渡した際の貸金債務で、原告の経営していた切手投資センターが倒産したこともあって回収できないままになっていたものであること、そのこともあって原告は少なからず道義的責任を感じて本件債務引受をすることにしたこと、そして、原告は被告から希望した金員を借りることができたことなどが認められるから、原告が本件債務引受を解除することができないからといって著しく正義に反するということもできない。
(三) なお、原告は、昭和六〇年三月一七日に被告に支払った金一〇〇万円についても不当利得を理由に返還を求めており、これを支払ったのは、それが本件消費貸借の条件のひとつであったからで、本件消費貸借の条件であった本件債務引受が債務不履行を理由に解除された以上、右と一体をなす右金一〇〇万円の支払も当然に法律上の原因を欠くことになると主張するもののようである。しかし、前記認定、説示のとおり本件債務引受を解除することはできないから、原告の主張はその前提を欠くものである。したがって、原告の右請求も理由がない。
4 次に、本件債務引受は、他人の窮状に乗じて融資の条件とされたものであるから、公序良俗に反して無効であるとの主張について判断する。
本件債務引受がされるに至る事情は、前記認定のとおりである。
そうすると、本件債務引受の目的たる貸金債務は、被告において回収困難なまま放置されてきたものであるところ、被告は原告が早急に融資を受ける必要に迫られていたことを契機として右債権の回収を図ったものとはいえるが、そもそも右貸金債務が未回収となるに至ったについては仲介した原告にも実質的な責任がないとはいえない。なお、被告よりも切手取引に詳しい原告の方がその回収の実を上げやすい立場にあったといえる。そして、前記認定の被告が本件担保切手及び借用書の引渡しを拒絶するに至る経緯に鑑みると、被告が当初からこれらを引き渡すつもりがないのに、これを秘して本件債務引受を原告に承諾させたとまでいうこともできないから(前記認定の経緯に照らすと、相当部分が紛失していたことが後日、明らかになったのではないかと推測される。)、結局、前記認定の事情の下において、本件消費貸借の際に被告が原告に対し本件債務引受を求めたことが正常な金融取引の慣行に照らして直ちに是認し難いということはできない。
したがって、本件債務引受が公序良俗に反して無効であるとはいえない。
5 さらに、原告は、被告が本件担保切手及び借用書を引き渡さなかったため損害を被った旨主張するので(予備的請求原因)、次にこの点について判断する。
(一) 被告が原告に対して本件担保切手及び借用書を引き渡さなかったこと、本件担保切手及び借用書は、中山と清水が昭和五四年五月に被告から合計金二一〇〇万円を借り入れる際に被告に対し差し入れた担保の切手の一部であること、その際、原告は右切手を当時の仲値の六〇ないし七〇パーセントとして担保評価したこと、原告は本件担保切手及び借用書の交付を受けて、本件担保切手を処分するとともに本件借用書によりある程度の回収をしようと考えていたことは前記認定のとおりである。
そして、前記2で認定の事実、《証拠省略》によれば、本件債務引受がされた当時の本件担保切手の価値は昭和五四年当時と比べ、相当下っており、その二割程度に過ぎず、せいぜい金六〇〇万円であったものと認められ(る。)《証拠判断省略》
そうすると、原告は、被告から本件担保切手の交付を受け、これを処分することによって少なくとも金六〇〇万円を回収することができたものと認められる。しかし、本件借用書の交付を受けることにより、果してどの程度の債権の回収が可能であったかについては、これを認めるに足りる的確な証拠がない。
そして、前記2で認定の事実によれば、被告には遅くとも昭和六〇年一〇月三一日以降、本件担保切手を引き渡す意思はないものと推認され、またその履行も事実上、不可能になったと考えられるから、原告は遅くとも昭和六〇年一〇月三一日以降、本件担保切手の引渡しに代えて、それが引渡されないことによる損害賠償を請求することができると解される。
(二) そして、右(一)で認定の事実によれば、原告は、被告が本件担保切手及び借用書を引き渡さないことによって、金六〇〇万円の損害を被ったものと認めるのが相当である。原告は、被告の不履行の態様の違法性が強度であることなどを理由に右損害は金二〇六〇万円である旨主張し、原告本人は一部これに沿うような供述をするが、その裏付けとなる的確な証拠もなく、また前記2で認定の事実に照らしても、理由がなく、採用することができない。
(三) 以上によれば、原告は、被告に対し、昭和六〇年一〇月三一日以降、金六〇〇万円の損害賠償を求めることができる。
そして、原告が、平成二年一二月一七日の第七回口頭弁論期日において、右損害賠償債権を自働債権とし、本件消費貸借契約に基づく貸金債権を受働債権として対当額について相殺の意思表示をしたことは当裁判所に顕著であるから、右貸金債権の元利金のうち金六〇〇万円は昭和六〇年一〇月三一日に遡って相殺により消滅したものと認められる。
6 ところで、本件消費貸借において、被告は原告に対して金五二〇〇万円を利息年一六・四二パーセント、遅延損害金年三二・八五パーセントで貸し渡し、原告は昭和六〇年九月一日までの利息を支払い、同年一〇月三一日にも金四二万三九〇〇円を利息として支払っているが、利息制限法所定の制限を超える利息または損害金の支払いは無効であるから、原告が被告に対して支払った利息等は、同法の制限内に引き直して充当計算すべきことになる。
弁済期前の利息の天引についても同様にすべきである。
7 そこで、本件における天引利息等の本件消費貸借による元本、利息への充当関係について検討する。
(一) 本件消費貸借においては、契約時に三〇日分(昭和六〇年五月九日から六月七日まで)の利息として金七〇万二〇〇〇円を天引きされたので、当初の現実受領額は金五一二九万八〇〇〇円であり、これを元本として利息制限法一条の年一割五分をもって三〇日分の利息を計算すると、金六三万二四四一円(〇九銭)となるから、天引利息金七〇万二〇〇〇円から右を控除した金六万九五五八円(九一銭)は元本に充当されたことになる。
5200万円-{70万2000円-(5200万円-70万2000円)×0.15×30÷365}=5193万0441円09銭
したがって、金五一九三万〇四四一円(〇九銭)が昭和六〇年五月九日現在の元本額となる。
(二) 次に原告は同年六月一三日に二四日分(同月八日から同年七月一日まで)の利息として金五六万一六〇〇円を支払っているが、このうち六日分(同年六月八日から同月一三日まで)の利息は既発生の利息の支払に、残りの一八日分(同月一四日から同年七月一日まで)は利息の前払いとなり、利息制限法一条の年一割五分をもって元本金五一九三万〇四四一円(〇九銭)に対する六日分の利息を計算すると、金一二万八〇四七円(六六銭)となるから、原告が同月一三日に支払った金五六万一六〇〇円のうち金四三万三五五二円(三四銭)が利息の前払いとなる。そこで、元本五一九三万〇四四一円(〇九銭)から右利息の前払い金を控除した金五一四九万六八八八円(七五銭)を元本として利息制限法一条の年一割五分をもって一八日分の利息を計算すると、金三八万〇九三五円(八九銭)となるから、前払い利息金四三万三五五二円(三四銭)から右を控除した金五万二六一六円(四五銭)は元本に充当されたことになる。
5193万0441円09銭-{43万3552円34銭-(5193万0441円09銭-43万3552円34銭)×0.15×18÷365}=5187万7824円64銭
したがって、金五一八七万七八二四円(六四銭)が同年六月一三日現在の元本額となる。
(三) 次に原告は同年七月一日に三一日分(同月二日から同年八月一日まで)の利息として金七二万五四〇〇円(金八四〇円と金七二万四五六〇円)を支払っているが、右は利息の前払いとなり、元本金五一八七万七八二四円(六四銭)から右利息の前払い金を控除した金五一一五万二四二四円(六四銭)を元本として利息制限法一条の年一割五分をもって三一日分の利息を計算すると、金六五万一六六七円(八八銭)となるから、前払い利息金七二万五四〇〇円から右を控除した金七万三七三二円(一二銭)は元本に充当されたことになる。
5187万7824円64銭-{72万5400円-(5187万7824円64銭-72万5400円)×0.15×31÷365}=5180万4092円52銭
したがって、金五一八〇万四〇九二円(五二銭)が同年七月一日現在の元本額となる。
(四) 次に原告は同年八月一日に三一日分(同月二日から同年九月一日まで)の利息として金七二万五四〇〇円を支払っているが、右は利息の前払いとなり、元本五一八〇万四〇九二円(五二銭)から右利息の前払い金を控除した金五一〇七万八六九二円(五二銭)を元本として利息制限法一条の年一割五分をもって三一日分の利息を計算すると、金六五万〇七二八円(五五銭)となるから、前払い利息金七二万五四〇〇円から右控除した金七万四六七一円(四五銭)は元本に充当されたことになる。
5180万4092円52銭-{72万5400円-(5180万4092円52銭-72万5400円)×0.15×31÷365}=5172万9421円07銭
したがって、金五一七二万九四二一円(〇七銭)が同年八月一日現在の元本額となる。
(五) 次に原告は同年八月一日に利息を支払った後は、同年一〇月三一日に利息として金四二万三九〇〇円を支払っているところ、前記認定のとおり、原告は昭和六〇年一〇月三一日に遡って金六〇〇万円の損害賠償債権と被告の原告に対する貸金債権とを対当額で相殺する旨の意思表示をしているので、この点の充当関係について検討する。
同年八月一日現在の元本金五一七二万九四二一円(〇七銭)に対する利息制限法一条の年一割五分による同年九月二日から同月三〇日までの二九日分の利息は金六一万六五〇一円(三二銭)であるから、原告が同年一〇月三一日に支払った金四二万三九〇〇円は右利息に充当される(したがって、残りの利息は金一九万二六〇一円(三二銭)となる。)。
次に前記元本金五一七二万九四二一円(〇七銭)に対する利息制限法一条、四条の年三割(前記2で認定の事実によれば、原告は、同年九月三〇日の経過によって遅滞に陥り、約定損害金の支払義務を負うに至った。)による同年一〇月一日から同月三一日までの三一日分の遅延損害金一三一万八〇三七円(三〇銭)の債権と前記残りの利息金一九万二六〇一円(三二銭)の債権は、同年一〇月三一日に遡る金六〇〇万円の損害賠償債権との相殺によって消滅し、右損害賠償債権の残りの金四四八万九三六一円(三八銭)と同額の貸金残元本が同じく相殺によって消滅した。
5172万9421円07銭-{(5172万9421円07銭×0.15×29÷365+5172万9421円07銭×0.3×31÷365)-(42万3900円+600万円)}=4724万0059円69銭
したがって、金四七二四万〇〇五九円(六九銭)が同年一〇月三一日現在の元本額となる。
(六) また、被告は本件土地建物の不動産競売により、昭和六二年一月二八日に手続費用を除いた金六五二四万七二一七円の支払いを受けているので、次にこの点の充当関係について検討する。
元本金四七二四万〇〇五九円(六九銭)に対する利息制限法一条、四条の年三割による同六〇年一一月一日から同六二年一月二八日までの四五四日分の遅延損害金は金一七六二万七六六〇円(六三銭)であるから、同六二年一月二八日現在の元本及び遅延損害金の合計は金六四八六万七七二〇円(三二銭)となり、これに右売却代金を充当すると、元本及び利息を完済した上、金三七万九四九六円(六八銭)の過払いとなる。
(4724万0059円69銭+4724万0059円69銭×0.3×454÷365)-6524万7217円=△37万9496円68銭
そうすると、原告は、昭和六二年一月二八日の時点において、本件消費貸借契約に基づく貸金債務を免れ、他方、被告は金三七万九四九六円(円未満切捨て)を法律上の原因なく、不当に利得しているといわなければならない。
しかし、本件全証拠に照らしても、被告が右の時点において右金員を不当に利得していたことを知っていたと認めるに足りる証拠はなく、他方、原告が、昭和六三年一一月四日、本件訴状の送達により、被告に対して不当利得の返還を求めたことは当裁判所に顕著であるから、右不当利得に対する民法所定の年五分の割合による遅延損害金は右の日の翌日である昭和六三年一一月五日から発生したものと認めるのが相当である。
二 反訴の請求原因及び抗弁について
1 反訴の請求原因1及び2の事実、同3のうち、原告が被告に対して本件消費貸借契約に基づく貸金債権に対する昭和六〇年五月九日から同年九月一日までの利息を支払ったこと、同4のうち、被告が、昭和六二年一月二八日に配当金として金六五二四万七二一七円を受領したことは、当事者間に争いがない。
2 しかし、本訴の請求原因についての理由中で説示したように、本件消費貸借契約に基づく被告の原告に対する金五二〇〇万円の貸金債権は前記相殺によって昭和六二年一月二八日の時点ですべて消滅しているから、反訴の抗弁3は理由があり、被告の原告に対する反訴請求は理由がないというべきである。
三 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、右の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用のうち本訴請求にかかるものについては民訴法八九条、九二条但書を、反訴請求にかかるものについては同法八九条を、仮執行宣言については同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 淺野正樹 裁判官 升田純 鈴木正紀)
<以下省略>